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東京高等裁判所 昭和43年(行ケ)79号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二(一) 原告の四の(一)の(原料の相違)の主張について

本願発明は、「主に四個の炭素を有する炭化永素のi―ブテン含有溜分からi―ブテンのオリゴマー特にチイソブテンを液相中で製造する方法」に関するものであること、そして、引用例には「本発明(重合可能なエチレン系単量体の重合方法に関する発明)の方法はあらゆる種類の重合可能なエチレン系単量体に適用できる。該単量体には……通常フリーテルークラフツ型及び酸型重合触媒により容易に重合される炭化水素単量体、例えばプロピレン、ブテン―一、イソアミレン、ビニルシクロヘキセン、シクロペンタジエン、スチレン、アルファーメチルースチレン、核アルキル化スチレン類、例えばo―,m―,p―メチル―スチレン等及びo―,m―,n―エチル―スチレン等及びアルファーメチル―スチレン、ビニルナフタレン、ビニルジフエニル等の相当する誘導体が含まれる。……これらの単量体は、単独に重合することも、或はこれらの単量体のいくつかを含有する混合物として重合することもできる。」旨の記載がある。

以上によると、引用例には、スルホン酸基含有腸イオン交換樹脂により重合可能な単量体として、ブテン―一(すなわち、n―ブテン)およびイソブチレン(すなわちi―ブテン)が他の多数のエチレン系単量体とともに列挙され、これらの単量体をスルホン酸基含有陽イオン交換樹脂をもつてオリゴマー重合することが示されており、しかも、「これらの単量体は、単独に重合することも、或はこれらの単量体のいくつかを含有する混合物として重合することもできる」旨の記載にかんがみると、叙上の単量体の数種のものが混合されている場合においては、混合されている単量体が共重合することはもちろん、そのうちの一種類が重合することがあることをも開示しているものと認めるのが相当である。そして、叙上の認定によると、たしかに、n―ブテンとi―ブテンとを含有する混合物を原料として使用することについて具体的な記載のないことは原告主張のとおりではあるが、さりとて、n―ブテンとi―ブテンとを含有する混合物を使用することを排除する趣旨であるとは到底認めがたく、結局、引用例はn―ブテンとi―ブテンとの混合物(またはこれに付加してその他の単量体を含む混合物)を原料として使用する場合のありうべきことを黙示的に言及しているものと理解することができないわけではない。そうすると、本願発明と引用例の方法とを比較して、使用触媒の粒度限定の有無の点でのみ両者の間に相違があると判断し、その他の点、ひいて原料の点について相違がないとした本件審決の認定を違法ということはできない。

のみならず、かりに本願発明の方法における原料が引用例の方法における原料と一致していないとしても、前認定のように引用例はスルホン酸基含有陽イオン交換樹脂により重合可能な単量体としてn―ブテンおよびi―ブテンを含む多数のエチレン系単量体を列挙している。しかも、引用例には、スルホン酸基含有陽イオン交換樹脂が従来の酸型重合触媒で容易に重合される炭化水素系単量体類の重合に広く適用される旨の記載のあることが認められ、かつ、従来の方法で硫酸を触媒としてi―ブテンとn―ブテンとを同時に含有するC4―炭化水素溜分からi―ブテンをオリゴマーとして分離する場合のあることは、原告の自陳するところである。してみれば、i―ブテンとn―ブテンとを共に含有するC4―炭化水素溜分を原料として引用例のいうスルマン酸基含有陽イオン交換樹脂を触媒として使用することにより選択的にi―ブテンのオリゴマー重合体を形成しうることは、当業者が引用例から容易に想到しうるところであるといわなければならない。したがつて、結論として、本願発明が引用例から当業者の容易に発明することのできるものであるとした本件審決は、結局において正当であるというべきである。

叙上の理由により、原料の相違を理由として本件審決の取消を求める原告の請求は失当たるをまぬがれない。

(二) 原告の四の(一)の2(触媒粒度の限定によるi―ブテンのみの重合の選択性の向上)の主張について

1 <書証>によると、本願の明細書には、「本発明による方法の場合先づi―ブテンが反応する。用いられた反応条件例えば反応時間、使用濃度、触媒粒子の大きさ等によつてi―ブテンは一部反応するか(補正書による訂正)又は実際上完全に反応する。i―ブテンとn―ブテンとの反応即ちコダイマーの生成―およびn―ブテン―分子そのものの間の反応の量は大したものでない。」、「本発明方法の公知の方法に比しての本質的な利点は次の点に存している。腐蝕が起るという不利は遊離の酸ともアルカリとも処理することがない故起らない。除去困難な廃物が出来ない。それは廃酸や廃アルカリが出て来ないからである。反応生成物の化学的あと処理は必要でなく場合によつて蒸溜による分別を行えばよいだけである。」旨記載されていること、スルホン酸基を含有する陽イオン交換樹脂を触媒として種々の反応条件下、とくに該イオン交換樹脂の粒度につき種々異なつた限定をしたうえ使用して行なつた実施例である例1ないし5の場合においてi―ブテンがオリゴマー化する百分率およびn―ブテンがコダイマー化する百分率等がこれを表にして示すと末尾添付の別表のとおりである旨の記載があること、しかしi―ブテンとともにn―ブテンを含有するC4―炭化水素溜分中のi―ブテンを選択的にまたは優先的に重合させることについては右のほかとくに明示的な記載はないことが認められる。

右事実によると、本願の明細書における触媒粒度の限定によるi―ブテンのみの選択重合率の向上という作用効果の記載はきわめて不十分であるとのそしりはまぬがれないとしても、全くこれを欠如しているとまでいうことはできない。したがつて、かかる作用効果の記載を全く欠如するとの被告の主張は採用することができない。

2 そこで、進んで、本願発明がi―ブテンの選択率の向上について、原告主張のような格別の作用効果をあげうるものであるかどうかを検討する。

(1) 本願発明の明細書によると、使用するイオン交換樹脂の重量百分比および反応条件とともにイオン交換樹脂の粒度それぞれ特定した明細書記載の例1ないし5においてi―ブテンがオリゴマー化する百分率およびn―ブテンがコダイマー化する百分率を表にして示すと、末尾添付の別表<省略>のとおりであることが認められる。

この別表によると、本願発明の要件とする限定粒度をはるかにこえる粒度一〇〇―二〇〇μの触媒(陽イオン交換樹脂)を使用した場合におけるi―ブテンのオリゴマー化の百分率が八五パーセント、n―ブテンのコダイマー化の百分率が六パーセントであるのに対し、限度粒度の範囲内である粒度五―二〇μの触媒を使用した場合におけるi―ブテンのオリゴマー化の百分率はそれぞれ99.9パーセント、九二パーセント、八八パーセントで、n―ブテンのコダイマー化の百分率はそれぞれ7.2パーセント、四パーセント、六パーセント、同じく限定粒度の範囲内である粒度一〇―三〇μの触媒を使用した場合におけるi―ブテンのオリゴマー化の百分率は98.6パーセント、n―ブテンのコダイマー化の百分率は六パーセントであることが明らかである。すなわち、この表にあらわれた実験例は、たしかに、粒度限定内の触媒を使用した場合には、粒度限定をこえる大きさの触媒を使用した場合に比し、i―ブテンのオリゴマーへの転換率が向上したことを示すものといいうるが、その向上が三パーセントにとどまる場合もあることも明白であるとともに、他方、n―ブテンのコダイマーへの転換率もまた向上する場合のあることも否定しえないところである。もつとも、使用された触媒の重量パーセントは、別表の記載に前掲<書証>を参酌して考察すると、本願の明細書の例1の場合においては二〇パーセント余で他の例の場合よりも著しく高いことを推測しえないわけではない。しかし、別表によると、例2と例5とでは同一粒度の触媒を同一反応条件で使用しても、i―ブテンのオリゴマーへの転換率は触媒の重量パーセントのはるかに低い例2の場合の方が甚だしく高いことが認められる。そして、前掲<明細書>中の各例の記載を参酌考察すると、叙上のように一見一貫しない現象は、原料触媒である陽イオン交換樹脂の種類にも関係があるのではないかと推認されないではない。すなわち、これを換言すると、i―ブテンのオリゴマー転換率の選択的向上があるとしても、<明細書>の記載のみでは、それが粒度限定のみによつてもたらされるものと断定するには足りないものといわなければならない。いわんや<明細書>は、触媒の粒度の限界的限定による作用効果の著大な変化を実証するものということはできない。けだし、同証記載の各例は限定粒度の範囲内または範囲外の一部のものの使用の場合における作用効果を示すにとどまり、限界に即した粒度の触媒の使用の場合の効果を示すものでないことは、その記載自体から明らかであるからである。

(2) さらに、原告は、粒度限定による選択性の著大な向上という作用効果を立証する資料として一九六九年二月五日付ゲルハルト・シャルフエの宣誓供述書を援用しているので、この証拠について考察する。

右<宣誓供述書>によると、実験として、i―ブテン(イソブテン)四七重量パーセント、n―ブテン五〇重量パーセント、ブタン類三重量パーセントの組成を有するC4―炭化水素溜分各二〇〇グラムにスルホン酸基含有陽イオン交換樹脂触媒A(粒度四五〇―五〇〇μのもの)、B(粒度二五〇―三〇〇μのもの)、C(粒度一五〇―二〇〇μのもの)、D(粒度七〇―一〇〇μのもの)、E(粒度四三―六〇μのもの)およびF(粒度一〇―三〇μのもの)をそれぞれ添加し、いずれも摂氏一〇〇度で一時間反応させたところ、i―ブテンの転換率(これが当然にi―ブテンのオリゴマーへの転換率を意味するものであるかどうかは、<宣誓供述書>の記載のみでは明確でなく、この点を確認する証拠はないが)は、それぞれ、二パーセント以下、二パーセント以下、二パーセント以下、四四パーセント、84.2パーセントおよび98.4パーセントであり、また、反応の結果残存するC4―炭化水素溜分中のn―ブテン対i―ブテンの比(同証でいう選択性)の数値は、それぞれ1.0―1.1、1.0―1.1、1.0―1.1、1.9、6.1および67.2であつた旨の記載のあることを認めることができる。したがつて、同証によれば、少なくとも、叙上認定の配合組成の原料を使用し、かつ、叙上認定の反応条件(温度および加熱の時間)のもとにおいては、本願発明の粒度限定以上の粒度の触媒を用いた場合には、i―ブテンの転換率(ただし、これをオリゴマーへの転換率を指すものと断定すべき証拠のないことは前記のとおりである。)はきわめて低いが、触媒DおよびE、すなわち限定粒度以上ではあるが比較的限定粒度に近い大きさのものおよび限定粒度以上ではあるがそれに近い大きさのものと限定粒度内のものとの双方を含むものを用いた場合には転換率はいちじるしく向上し、触媒F、すなわち限定粒度範囲内のものを用いた場合にはさらに一層向上すること、ならびに、同証にいう選択性、すなわち残存C4―炭化水素溜分中のn―ブテン対i―ブテンの比は、触媒AからDまでを用いた場合にはよくないが、触媒Eを用いた場合にはやや好転し、触媒Fを用いた場合には飛躍的に向上するものということができる。しかしながら、<宣誓供述書>は、既に判示したところから明らかなように、先に認定した特定の組成の原料を使用し、特定の反応条件で行なつた場合における作用効果を実証するにとどまる。異なつた組成の原料を用い、異なつた反応条件の下において行なつても同様な結果を示すであろうことは、その点についての特別の立証のない本件においては、当裁判所の軽々に推断しえないところである。しかも、本願発明は、前叙認定のように、粒度について限定する以外に原料組成や反応条件については限定していないのであるから、<宣誓供述書>の叙上記載は、原告主張のように触媒の粒度限定によつて著しい作用効果があることを認定するに足りる確証とすることはできない。

のみならず、原告は、本願発明が触媒粒度の限定によりi―ブテンのオリゴマーへの転換率の選択的向上につき著大な作用効果を有する旨主張するのであるが、甲第六号証にいうi―ブテン転換率が右にいうオリゴマーへの転換率を示すのであること、ないしは、オリゴマーへの転換率が<宣誓供述書>にいうi―ブテン転換率にほとんど近似するものであること、および<宣誓供述書>記載の選択性、すなわち反応後残存するC4―炭化水素溜分中のn―ブテン対i―ブテン比が当然原料中のi―ブテンのオリゴマーへの転換率とn―ブテンのコダイマーへの転換率との比較を如実に反映するものであること、ないしは、この比較は叙上選択性に正比例しこれに近似するものであることは、この点についての立証のない本件においては、当然裁判所のにわかに断定しえないころである。換言すれば、当裁判所は、<宣誓供述書>中のi―ブテン転換率および選択性に関する記載をもつて、原告主張の作用効果を断定するに足りる確証と認めるに躊躇を感ぜざるをえない。

さらに、右<書証>によると、イソブテン(i―ブテン)の転換率および選択性が触媒の粒子サイズによつて影響を受ける状況を示すものとして末尾添付の図表が掲げられていることを認めることができる。そして、この図表によると、いわゆるi―ブテンの転換率は触媒の粒度が一七〇μ前後以下になるに及んで急激に向上し、かつ、同号証にいわゆる選択性が触媒粒度七〇前後になるに及んで急激に向上する事実が認められないではない。ところで、この図表は、その他の記載を総合して対比考察すると、触媒AないしFを用いて行なつた実験結果に基いて作成されたもの、詳言すれ、触媒AないしFはその平均値の粒度のもの(たとえば、触媒Aは四七五μ、触媒Bは二七五μのもの)を用いたものとして右実験結果によるi―ブテン転換率および選択性を図表中に点で書き込み、これらの点を線で結んで作成したものであると推認される。したがつて、この図表の記載は、i―ブテン転換率および選択性の記載について述べたところと同一の理由により、原告の主張する作用効果を確認する証拠として採用することができない。

結局、当裁判所は、<宣誓供述書>をもつて、原告の主張する粒度限定によるi―ブテンの転換率の選択的向上についての特別な作用効果を確認するに足りる証拠とすることができないのである。

(3) 他に、この点の原告の主張を肯認すべき証拠がない。

三、以上のとおりであるから、本件審決について、原告主張のような違法の点のあることを理由として本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、失当として棄却……する。

(服部高顕 石沢健 奈良次郎)

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